学会雑感

先週後半は学会に参加しました。

日本臨床眼科学会と言って、多分眼科の学会の中では一番大きな学会じゃないかと思います。場所によりますが、5000〜8000人ぐらい参加するんじゃないかな?

大きすぎて、会場や宿泊施設のキャパシティから、もう開催できる都市は東京とか京都とか福岡とかの限られた都市だけらいしです。

この臨床眼科学会は、毎年自分の専門分野じゃない分野の話も聞くよいチャンス。

小さな学会だと、専門分野の人だけが集まるので違う話は聞けないですが、これだけ大きな学会にあると、隣の部屋に行けば、全然違う内容の話をしていたりするので、いつもと違うことも勉強しやすいんです。

で、今回は、私は、1日目は近視の進行抑制のところと、網膜変性疾患のところへ、2日目はAIと眼科医療のところへ、3日目は学会の偉い先生の招待講演などを聞きに行ってきました。

この近視抑制と網膜変性疾患の話はとても面白かったです。

近視の抑制の方法は、近年ではいろんな方法が出てきて、特殊なメガネとか、低濃度アトロピン点眼とか、多焦点コンタクトレンズ、そしてオルソケラトロジーなどが用いられるようになってきているんですね。どれも、すごく効果があるかどうか、というと、統計的には有意差が出るけど、個別の症例で100%進行をコントロールできるものではない、と私は理解していました。でも、その中でも、効果の高いものが出始めてきている、というデータもあるようです。


眼科医的には、軽度の近視は決してハンディキャップではなく、現代のように室内での生活がメインの場合、むしろ老眼年齢になると軽度近視はアドバンテージでもある、と思います。でも、強度近視は、確かに眼底出血や網膜剥離、緑内障などのリスクも高く、防げるものなら防いだ方が良いと思います。

しっかりデータをとっている先生たちがいるので、今後の結果に思わず大きな期待を寄せてしまいますね。

網膜変性症は、日本の失明原因で3位以内に入ってくる疾患です。他の緑内障や黄斑変性には治療法が出てきているのに比べて、網膜変性にはまだ明らかに効果のある治療法が出てきていないために、相対的に順位を上げてきてしまっている疾患でもあります。

この網膜変性症も、ものすごく研究が進んで、いくつか治療効果が期待できそうな内服薬や注射薬の開発が進みつつあるようです。これも、治療薬を網膜下に注射している映像とか出てきて、感嘆しました。そもそも網膜下に注射をするなんてことだって、私が仕事を始めた頃はあまり考えられなかったですよ。手術技術の進歩もあってできるようになったことでもあります。

でも、今のところ、これらの治療はどれもまだ研究段階で、まだ治験の結果も出ていないし、安全性についても十分なことがわかっていないので、現実的に使えるようになるかどうかわかるまでにも何年かかかる見込み、ということです。

ただ、このような不可能にチャレンジする分野は、聞いていてもテンションが上がりますね。自分がもしまだ専門が決まっていなかったら、きっと「こんなことをやってみたい!」と思って門を叩いてしまったんじゃないか、と思いながら聞きました。

AIについても、たくさんセッションがありました。やはりみんな気になるところなんでしょうね。ただ、AIの話を聞いていて思ったのは、結局まで誰もAIが眼科医療に入り込んできて、何が起こるのかを体験した人はいないということ。講演をしている人たちも、想像の世界で話をしているんじゃないかと思いました。

だからなのか、演者によってスタンスも話のフォーカスもすごくまちまちなんだな、と。

個人的には、私には未来を見通す力など、つゆほどもありません。こんな講演をしてくれ、と言われたら困るだろうな。

でも、とにかく恐れても期待をしても、世の中の流れから考えてAIが入ってくることを止めることはできないでしょう。それは、世界的な潮流だし、鎖国することもできないんだし。とすると、それを受け入れて、自分にできることをするしかないんだろうな、なんて思いました。

以前、レーシックをメインでやっていた頃、何年かごとにレーザーのソフトがバージョンアップされたものでした。その度に、それまでできなかった遠視矯正ができるようになってみたり、それまでなかったトラッキングシステムがついたり、といろんな新しい機能が追加されるのを体験しました。そして、そうやって便利な機能が追加され、バージョンが上がるたびに、予想もしなかった問題が起きて、それを解決していく必要がありました。

なので、私たちとしては、ソフトがバージョンアップして何かができるようになる、と聞くたびに、「また、新たな問題が出るんだろうね」というスタンスで迎え入れていました。

バージョンアップは良いことなんだけど、長所ばかりではなく、付随する問題は解決していく必要がある。でも、それを乗り越えれば、やはりバージョンアップにはアドバンテージが多くある、と思います。

むしろ、進化しない、ということはあり得ないわけです。

これまでのソフトのバージョンアップと、自分で深く学習するAIは違うよ、と言われればそうなのかもしれませんが、とにかく、進歩を過剰に怖がらず、きっと良くなると思って受け入れることしか、私たちはできないんじゃないかと思うわけです。

真面目なお勉強はあまりせず、ほう、すごいな、と思いながら聞くことが多かった学会でした。

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法観寺八坂の塔。日本で一番古い五重の塔だそうです。

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