モバイル顕微鏡とスマートフォンを用いた病原微生物の検査

「モバイル顕微鏡とスマートフォンを用いた、角膜腫瘍からの真菌及びアカントアメーバの迅速検出の試み」という私たちの短い論文がEyeに掲載されました。

https://rdcu.be/cUwPS

この顕微鏡は、mil-kin(R)という市販されているもので、小型で持ち運べます。

https://www.mil-kin.com

さらに、固定や染色なしで、すぐに微生物を観察できます。スマホで見るので、写真や動画を撮りたければ、その場でスマホのカメラアプリを用いて撮影できます。

なぜこんな報告をしたのか、きっかけがありました。

私は普段、病院・クリニック合わせて何箇所かで診療していますが、ご存知のように日本の医療施設は西高東低で、西日本に比べて東日本は東京以外はどちらかというと人口あたりの医師の数が少ないと言われています。なので、ちょっと東京から出ると、眼疾患もいきなり重症が増えるのは、医師の間では割とよく知られた事実です。

ある時、東京近郊のある大学病院の角膜外来に、2〜3ヶ月のうちに立て続けに結構重症の角膜潰瘍の人が3人ぐらい受診されました。

そのうち一人の方は、老健施設に入所していました。全身状態は高血圧とか糖尿病とか色々あって、脚も悪く車椅子で来院されています。片目はずっと前に眼底出血して視力はほとんどありません。もともと見えなかったので自分では気づかなかったけど、施設の職員の方が
”黒目が白くて白目が赤い”ことに気づいて
→まず施設に来ている総合診療内科の先生に診てもらい
→内科の先生は「これは眼科に行かないと無理だ」と判断して、近くの眼科クリニックに紹介
→その時点で結構な角膜潰瘍になっていて、クリニックの先生がすぐ大学病院に紹介
→そして初診の先生が診て角膜外来に回してくれたというわけです。




ところが、この一つ一つのステップの間に、1〜3日ずつぐらいのタイムラグが発生していました。結果、対応は後手後手になり、角膜潰瘍はかなり進行した状態になっていました。


そして、緑膿菌という細菌の感染だったので緑膿菌に有効なアミノグリコシド系の抗生物質の点眼を出そうとしたら、「施設入居の方だから、病院からは処方ができません。施設に手紙を書いてそちらで出してもらわないといけない」と言われました。施設の担当医師に手紙を書いたのが金曜の夕方でしたが、アミノグリコシドのような処方頻度が高くない点眼薬が施設においてあるわけはなく、しかも週末を挟むということで、取り寄せに数日かかると言われました。

また、穿孔(角膜に穴が開いてしまうこと)のリスクがあったため一応穿孔したときの対応も考えました。その病院は角膜移植ができなかったので「東京の病院に行った方がいいかもしれませんよ」というと、患者さんは「もともと見えない眼だから東京になんか行きたくない。東京に行くぐらいなら眼を取ってくれ」と言います。

さらに、緊急になることを想定して、早めに麻酔科に相談したところ、今度は「全身状態が悪いので、麻酔はかけられないかもしれない」と言われました。

こんなことが、本当に立て続けに3回ぐらいあったのです。その時に、つくづく思いました。




「こんなの、最初から原因菌が分かってれば、たった数百円の目薬一本で治ったんじゃないの? なのに、なんでこんな何十万円もの医療費を使って、命のリスクを冒して麻酔をかけて眼を取るとかいう話になってるんだろう? 入院して、悲しい思いをして、さらに年取った人はそれだけで認知機能まで落ちるかもしれない。21世紀の日本で、なんでこんなことになってるんだろう?」


それで、色々考えていて、「簡単にスマホで菌が見つけられればいいんじゃない? 感染症専門の先生はよく自分で塗抹鏡検とかしてるけど、難しいし、高価な顕微鏡やら染色する場所や道具やら必要だし、たとえできたとしても熟練した人じゃないと菌を正確に見つけられない。もっと簡単にスマホを使って原因微生物を同定できればいいのでは?」と思ったというわけです。



そんなことからスタートしたスタディでした。全く難しい話じゃなくて、とてもシンプルな報告です。

英語ですが、よろしければ冒頭のリンクから論文をご覧ください。


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