角膜クロスリンキングが必要な人はどんな人ですか?

今回は改めて、角膜クロスリンキングはどんな人に必要か?という話を書いておきたいと思います。


角膜クロスリンキングについては、これまで何度か記載してきました。角膜クロスリンキングの基本については、以下のリンクをご覧ください。

https://keratoconus.jp/about_kc/index02.html






角膜クロスリンキングは、円錐角膜の進行を停止させるための治療法です。
進行を停止させるだけなので、すでに進んでしまった円錐角膜を治す、視力を矯正して改善させると言った効果はほとんど期待できません。

円錐角膜は、思春期から青年期(10〜20歳代)に発症して、中年になると進行が緩やかになりやがて止まってしまうことの多い疾患です。したがって、角膜クロスリンキングが適しているのは、基本的には、発症して間もない若い人たちです。


とはいえ、どの程度までを若いというのか、いつ発症したのかはっきりわからない、などのケースも多く、上記の言い方では判断に悩むことがあります。
そこで、どんな人がこれから進行するのか、円錐角膜で病院を受診された方の初診時の所見とその後の進行具合の関連性を調べる研究を行いました↓

円錐角膜症例の初診時所見とその後の角膜クロスリンキング(CXL)の必要性の関係
上記論文 Kato et al. PLOS ONE 2020より改変 

グラフの横軸は初診時の年齢(Age)で、縦軸はKmax(角膜慶應解析の図で、最も尖った部分の角膜屈折力)です。●は、その後経過観察をしているうちに円錐角膜が進行して角膜クロスリンキングが必要になった人、○は進行しなかった人を表しています。
この研究で明らかになったことは、年齢が20代前半で中等度以上の円錐角膜はその後進行して角膜クロスリンキング(CXL)が必要になることが多い。一方、30歳以上で軽い円錐角膜はその後進みにくいと言うことです。

つまり、初診時に年齢が20歳代前半かさらに若く、すでに中等度以上の円錐角膜になっている人は、その後高確率で円錐角膜が進行するので出来るだけ早く角膜クロスリンキングをしてそれ以上悪化させないようにした方が良いと考えられます。一方で、すでに30歳前後かそれ以上の年齢になっていて、軽い円錐角膜の人は、その後進む可能性は低いのですぐに手術をする必要はないと考えています。




大阪大学の先生たちのグループも同じようなデータを報告しています。

Fujimoto et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2016 より

上のFujimoto先生らの論文の図で一本一本の線は一人の患者さんを表していて、横軸が年齢、縦軸が円錐角膜の重症度(下に行くほど重症)です。一本一本の線が右下がりになっているということは、年齢が進むのにともなって円錐角膜が重症化したことを表しています。このデータを見ても、円錐角膜は年齢が若い人の方が進みやすく、また重症になると止まりにくくなってきます。円錐角膜が軽い人の方が早くに進行が止まる傾向が見てとれます。




ここからも、10歳代または20歳代前半で中等度以上の円錐角膜になってしまっている人は進行しやすいので早めの角膜クロスリンキングを、30歳以上でごく軽度の円錐角膜の人はおそらく進行しないと考えられるのでそのままで良い、ということが言えると思います。

それ以外の人、つまり、10歳代や20歳代前半だけどごく軽い円錐角膜の人、または20歳代後半以上で中等度以上の円錐角膜がある人については、一度の診察で今後の進行を予測するのは難しいので、時間をおいて何度か診察を繰り返して進行するかどうかを見極める必要があります。

したがって、私自身は未成年である程度の円錐角膜になっている人には1回の診察のみで角膜クロスリンキングをお勧めすることも多いですが、円錐角膜があるからといって25歳半ば以上の人にすぐに手術をするのは早計である、と考えています。

角膜クロスリンキングは安全性が高い手術に分類されますが、それでも痛みを伴う、通常の見え方に戻るのに数日から数週間かかる、頻度は低いけれど感染や炎症など治療が必要な合併症のリスクがある、そして、お金がかかる、などの理由からです。



もう一点、私たちが日々の診療で重視しているのは、”直近1〜2年間の進行具合”です。

外来で患者さんに「以前に視力検査をしたことがありますか?」とお聞きすると、「10年前の学生時代に」などと答えてくれる方がいますが、そんな以前の話ではなく、直近の1〜2年前のことを教えていただきたいのです。

直近1〜2年の進行を確認するためには、自覚症状はやや不十分です。と言うのは、自覚症状はその人の生活環境や心理状態にも影響されるので、当てにならないときがあるからです。「28歳ぐらいの頃はよく見えていたけど、32歳の今はあまり見えません」と訴える人は、もしかしたら仕事の環境が変わってパソコンや細かい文字をたくさん見るようになっているかもしれないし、円錐角膜だということに気付いて視力に対してナーバスになっているということもあり得ます。

また、視力検査のデータにしても、円錐角膜の人は、不正乱視のためにぼやけて見えても視力検査表の指標がわかってしまうことも多く、乱視度数の割には視力が良かったりしがちです。円錐角膜の視力検査は検査員の間でも難しいと言われており、測る人の技量や環境の影響、その日の体調などによって視力が大幅に変わることもあるからです。

客観的な指標として「屈折度数検査」と「角膜曲率半径検査」のデータなどがあれば、参考になります。過去に眼科やメガネ店で視力検査をしたことのある方は、その前に必ず「屈折度数検査」と「角膜曲率半径検査」はされていると思います。このようなデータを持ってきていただけると非常に診断の助けになります。


このように、角膜クロスリンキングが必要な人は、

1 若くて中等度以上の円錐角膜がある人
2 直近1〜2年の進行が確認できる人

です。

個別の状況については、受診した病院やクリニックで直接相談してください。


「屈折度数検査」「角膜曲率半径検査」;眼科やメガネ店で視力測定をする前に「道の向こうの気球を見る検査」をしますね。あの検査で同時に測られていることが多いです。







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