クロスリンキングの学会で思ったこと
スイスの学会について、備忘録的に書きたいと思います。
学会は、角膜クロスリンキングのエキスパートミーティングと言うもの。世界30か国ぐらいから200人以上もの角膜専門医が集まってました。うち、日本人は私を含めてたった2人。
この学会、結構前から時々行ってるんですが、日本人が少ないです。場所がいつもヨーロッパで、12月の寒くて暗い時期、と言うのもあるかもしれないけど、それにしても寂しいです。
そんな寂しいところになぜ行くか、というと、当初は、日本でクロスリンキングをやってる人が他にほとんどいなくて、これから始めようかと思ってる人や始めたばかりの人からいろいろ質問を受ける機会が多かったのです。新しい方法だし、何か大きな問題が起きたりした時、それが論文や教科書になるのを待っていたらその間に何年も経過してしまいます。学会に行ってまだ活字になっていない情報を入手し、さらに直接やってる人から話を聞くことがとても重要と思ったので行くようになりました。
なので、「海外学会、いいね♡」と言われても、本人はむしろ義務感に駆られて行っていた、ということは一応書いておきましょう。
さて、学会の内容ですが、そんなに奇をてらったものはあまりなくて、結構堅実な感じでした。
私は参加しなかったけど、初日にはこれから始める人向けのウエットラボ(豚などの眼を使った練習)もやっていたようです。
上皮剥離をして紫外線を30分照射する一番古典的なドレスデン法(標準法)*1でやってる人もまだたくさんいます。因みに、ドレスデン法は、日本ではもうやってる人はほとんどいないんじゃないかと思います。私たちは、ドレスデン法と5分で照射できる高速法のデータを自分たちで検証して、高速法の方がいいと思ってるのでそっちでやってます。
また、角膜上皮を剥離しないエピオン法は、世界ではそんなに一般的ではありません。
各国のいろんな施設からいろんなデータが出てきてディスカッションも盛り上がり、聞いていて勉強になりました。やはりトレンドとか、みんな何を注意してるのかは、実際に出かけて行って直接聞くのが一番よくわかります。
さて、この学会は一部屋にカンヅメで参加者はずっとみんな一緒。コーヒーブレイクとランチはバイキング形式で、会場の隣の部屋に並んだものから自分で好きなものを取って、空いているところに座って食べる方式です。1日目はもう1人の日本人の先生がまだ到着してなかったこともあり、列に並んだときにたまたま隣にいた人と一緒に食べました。この人は、イギリスからきている女性の先生でした。
この先生に、いろいろイギリスのクロスリンキング事情を聞いてみました。曰く、
- イギリスでは、角膜クロスリンキングは保険で賄われるので、患者負担はほとんどないそうです。なぜなら、円錐角膜は疾患なんだから、保険が使えるの、当たり前でしょ?と言われて、日本は自費なんですよ、と言ったらすごい驚いていました。
- 日本では厚労省が角膜クロスリンキングを承認してないので、あまり広まらないという話も、「早いうちに進行を止めればその後ずっと大きなメリットがあるのにどうして?」とこれまた驚いてましたが、私に理由を聞かれても・・・。私もなんとかしたいです。
クロスリンキングの件数については、現在の日本では正確な統計はありません。ただ、2016年のアンケート調査では、円錐角膜に対して行われた数はまだ全国でも累積1000件に達していませんでした。
それから3年経って、だいぶんできる施設も増えたし、一つ一つの施設で年間数件のところもあれば、100件を超えるレベルでしているところもあるので、仮に全体で年間300〜500件ぐらいにはなったと仮定しても、多く見積もっても3000件ぐらいかな、と思います。
アメリカでは、2016年の春に日本の厚労省に相当するFDA(米国医薬品食品局)がクロスリンキングを承認してから最初の一年で20000件を超える数が執刀されています。ヨーロッパはもっと早くからやってたし、アジアの国もインド、マレーシア、シンガポールなんかはたくさんやってそう。発表も論文もガンガン出てます。そして、最近は中国の台頭が著しい。
世界中ではもう50万件以上されてるんじゃないでしょうか(これも正確な統計なし。ただ、何年も前に30万件は超えてると言われていました)。
仮に世界中でクロスリンキングが行われた数を少なく見積もって30万件として、日本で行われた数を多く見積もって3000件とすると、日本で行われたのはどんなに多くても世界の1%。でも、これは最大限多く見積もった場合で、多分実際にはもっと少ないと思われます。
クロスリンキングエキスパートミーティングも、参加者200人中日本人は2人だから、日本人の比率は1%です。でも、世界の中での日本人の人口は約1.8%、先進国の人口は約12億だから、先進国の人口の中で日本人の占める割合は10%ぐらいのはずなのに。
これはホントに寂しい。それともこんな計算するからいけないのか?!
日本で数が増えない理由は、やはりなんと言っても保険適応にならないことと、保険になってないので眼科医の中にも未だに治療の効果と安全性を信じてくれていない人もいるのかもしれない、と思っています。
でも、ホントに世界では標準治療になって来てるので、もっとそれをわかって欲しいものです。
このブログでも何度か書いてますが、円錐角膜は主に若い人、働く世代が直面する病気だから、ぜひ医療費をもっとそこに投じてほしいものです。
10年後に、「先進国ではもう円錐角膜で重症になる人なんか見かけなくなったよ。日本にいけばいるけどね」ってなったら困る。そうならないように願っています。