円錐角膜治療を数値で考えてみた

先日、医療はサイエンスであってほしい、と言う話を書きました。

これと、ちょっと似ていますが

物事を考える時に、感覚で考えないで数値に落とし込んで考えると、見え方がちょっと変わってくることがあると思います。

円錐角膜の治療についても、数値で考えると、変わって見えることがあるので、ここに解説してみたいと思います。

実は、この計算は、何年か前にその頃私の仕事場にいた研修医の先生たちと一緒に考えたものなのですが、その後の私の行動に大きな影響を与えました。

 (だから、若い人たちの発想って好きです♡)

私が携わっている角膜クロスリンキングという治療は、円錐角膜という病気の進行を止める方法です。2003年にドイツの先生が考えて、今では世界では円錐角膜の標準治療になっていると言っても過言ではない方法です。

世界的には、今現在進行している円錐角膜症例に角膜クロスリンキングを行うと、90%以上の確率で進行が止まる、と言うデータが報告されています。この数値は、いろんな国の先生たちが報告していて、だいたいみんな同じような結果を出しています。

私たちも、日本人の円錐角膜での手術成績を調べましたが、受けた人の92%に進行停止効果が得られることがわかりました。

ご興味ある方はこちら。英語ですが→Corneal crosslinking for keratoconus in Japanese populations: one year outcomes and a comparison between conventional and accelerated procedures.

さて

円錐角膜の有病率は、諸説ありますが、低く見積もっても500〜2000人に1人はいると考えられています。

そうすると、日本の人口が1億人だったとしても、5〜20万人はいる計算になります。

10〜70歳代までの年代にそれぞれ同じ数の患者さんがいると仮定します。

すると、上記の計算を簡単にするために患者総数が14万人だったと仮定すると、それぞれの学年に2000人の患者さんがいる計算になります。

円錐角膜は10〜20歳代で発症し進行します

でも、30歳以降になると、進行する人はかなり減って来ます。

なので、単純に考えて、毎年2000人が円錐角膜を発症する、と考えます。

発症したばっかりの人全員に角膜クロスリンキングを行えば、重症化する人はいなくなると考えます。すると、毎年2000人に手術を行えばよい、と言うことになります。

計算を簡単にするために、進行停止率も90%とします。すると、2000人に角膜クロスリンキングを行うことにより、進行する人は少なくとも1年あたり全国で200人以下にできるはずです。

進行したとしても、角膜クロスリンキングをしない場合よりは、重症度は低くなります。というのは、世界的にも、角膜クロスリンキングをした後に、いわゆる重度の円錐角膜で移植手術をしたと言う話は、ごく稀にしか聞かないし、私自身もそう言う方に出会ったことがまだありません。

そうすると、毎年角膜移植が必要な人は、大幅に減らすことができるはずです。

角膜移植の総数は現在全国で3000件で、そのうちの1割が円錐角膜が原因と言われています。と言うことは、現在は全国で約300人が、円錐角膜のために角膜移植を受けている、と言うことです。

ということは、毎年2000人に角膜クロスリンキングを行うことにより、円錐角膜で角膜移植を受ける人の数は、年間数名までに減らすことができる、ということになります。

角膜クロスリンキングと角膜移植を比べると、角膜クロスリンキングは日帰りでできるし簡単です。ほとんどの方は一回で済みます。

一方、角膜移植は入院するし、術後も拒絶反応などの問題もあるし、大変さは比べものになりません。

でも、手術そのものを比較する以前に、もし円錐角膜の進行を早い段階で止めることができれば、患者さんは、メガネ・ソフトコンタクトレンズ・ハードコンタクトレンズの中から自分の好きなものを選んで生活できるようになります。

家ではメガネ、運転の時はハードコンタクト、スポーツをする時はソフトコンタクトなど、自由に使い分けもできます。

職業を選ぶときの制約もうんと少なくて済みます。

ところが、もし進行してしまってすごく重度になった場合には、ハードコンタクトレンズをしなければ日常生活が送れなくなってしまいます。

それでは、スポーツをする時にも支障が出るし、選べない職業なども増えてしまいます。

調子が悪くてコンタクトレンズができない日には、外出もままならない、と言うことにもなります。

角膜移植を受ければ、手術がすごくうまく行っても、その後ずっと病院に定期的に通い続けなくてはならないし、点眼も続けなくてはなりません。手術の時以外にも、もし拒絶反応が起きたりした時も、何週間も入院しなくてはならず、社会生活に少なからず支障が出ることは間違いありません。

さて、角膜クロスリンキングは、現在まだ保険診療になっていないのですが、たとえこれが角膜移植と同じ50,000点(保険医療の10割負担で50万円)で保険収載されたと仮定します。すると

50万円 × 2000人 = 10億円 

のお金でできるわけです。

これ、すごく多いと思われるかもしれませんが、例えば白内障手術は年間100万人に行われていると言われています。白内障手術は約12万円ですから

12万円 x 100万人 = 1200億円 

のお金がかかっています。

(計算合ってるかな? 実は計算苦手・・・)

移植手術は、約50万円で、年間300人に行われていると仮定すると、手術費用だけ考えれば、

50万円 x 300人 = 1億5000万円 で済んでいる、

と思われるかもしれません。

でも、生産年齢の人たちが、手術のためにだいたい1ヶ月ぐらいは仕事を休み、さらにその後も通院のため、毎年何日も休み、場合によっては拒絶反応や感染が起きると、また何週間も休んで入院したりします。

中には、経過が思わしくなくて、精神的に落ち込んでしまって、それでさらに働けなくなる人もいたりします。

で、実際は角膜クロスリンキングは、角膜移植の半分以下の値段でやっているのが実情です。

そう言うことをひっくるめて考えると、 

断然、角膜クロスリンキングを普及させたほうが、経済効果も高いし、良いんですよ! 

実際問題、

欧米諸国では、角膜クロスリンキングは公的なお金で受けられるところが多くなってきています!!

と、ここに書いておいたら、誰かエラい人がみて、角膜クロスリンキングの保険承認に向けて動いてくれないかなあ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です