オルソケラトロジー Pros & Cons
昨日オルソケラトロジーについて書いたらいろんなコメントをいただいたので、合併症について追加で書きます。
オルソケラトロジーだけでなく、すべての医療には合併症はつきもので、合併症のない医療なんてありません。副作用がない薬がないのと同じです。それでも病気になってしまった場合には、合併症があったとしても良くなる可能性を考えて医療を行うしかない、と言う選択肢になりますが、近視というと別に病気ではないので、そんなことのために1000に1つでもリスクのあることをしなくてはならないのか?という疑問が湧いて来ます。オルソケラトロジーで1300例に1例感染症がある。と言うことは、日本中で5万人の児童が使えば、50人が感染症になって、そのうちの何割かが視力が出なくなってしまうことも考えられるわけです。そしてついでに言うと、普通のコンタクトレンズだって、みんな安全だと思って使ってると思うけど、実はすごい角膜感染症になって入院が必要になったり、後遺症を残したり、角膜移植が必要になったりする人は年間何人もいます。特に、10代の若い人、時には10歳未満の小さい子供さんが使ったりすることもあるオルソケラトロジーだから、やっぱり眼科医としては、危険性をちゃんと啓蒙する必要はあります。
ただ、一方で思うのは、日本の眼科専門医の先生たちはすごく真面目な方が多く、また眼科医というものは眼のことを知りすぎているために近視をそれほどハンディだと思っていないので(現代社会では近くを見ることの方が多いので)、「近視なんか直す必要はない!」って意見になって、レーシックに対してもオルソケラトロジーに対しても反対派の人がすごく沢山いるんですが、世の中には近視をすごく苦にしていて治したい患者さんがそれ以上の数いることも事実です。もしも、眼科専門医が「レーシックやオルソケラトロジーは悪いことだ。だから自分はそんなことはしないし、そんな治療を受ける患者さんなんか知らない!」と言い出したら、その患者さんたちはそう言わない専門医じゃない人のところに行ってしまい、それはもっと危険なんじゃないかと思います。
だから、やっぱり眼科専門医がしっかりと向き合って、少なくとも世界で一定の評価を受けて広まってる治療については、ニュートラルな立場で意見を言えるようにしておいた方がいいな、と思います。
今回、私がもう一度オルソケラトロジーについて復習しよう、と思ったきっかけは、当初眼科医仲間の間で「角膜が真っ白になった患者さんをみたよ」という話を聞いたことがあったからです。2011年以降に広まって来た治療だし、最近オルソケラトロジーを希望して実際に使ってる若者は増えています。だから、最新の常識はどうなっているんだろう?と思って、調べてみたというわけです。幸い「理由もわからず角膜が真っ白になった」という事例は載ってませんでした。ああ、よかった。でも、やっぱり「一番危ないのは感染症」ということはどの論文にも書いてありました。感染症になれば、たとえ治っても後遺症として角膜が白くなることは十分あり得ます。これも共通知見です。
さらに、近視は病気でないとはいえ、強度近視は網膜剥離や緑内障になる頻度も高く、できればなりたくないものなので、「オルソケラトロジーで強度近視になるのを防げるといいな」とプラスの価値があるかどうかも知りたかったのですが、昨日も書いたようにこちらはまだそこまでの効果は証明されていませんでした。
自分自身が近視だったらオルソケラトロジーをするか?と聞かれると、私はきっとしないし、自分の親族や仲の良い友達にも勧めません。私なら、どうしても近視を直したい人には、大人になってから手術をすることを勧めます。だけど、世の中にはいろんな事情や価値観の人がいるし、上記のような理由で私たちが拒否してしまうのは余計に良くないと思うので、患者さんで希望される方には注意喚起した上で選んでもらいます。
ということで、昨日と同じ結論になりますが、オルソケラトロジーは、そして普通のコンタクトレンズにも、決して多くはないとは言え感染症のリスクがあることは否定できません。便利なものだけど、くれぐれも注意して使いましょう。調子が悪いときは無理せず、すぐに眼科にかかってくださいね。