オルソケラトロジーについて

最近、外来でオルソケラトロジーを希望する患者さんに遭遇することが多いので、自分の復習も兼ねていくつか論文を読んでみました。

オルソケラトロジーは、レーシックなどの手術をすることなく近視を矯正する治療ですが、要は寝ている間に特殊なハードコンタクトレンズをつけて、朝起きたら外すというものです。そうすると、寝ている間にコンタクトレンズで角膜にクセがついて、そのために日中はコンタクトを外しても近視が矯正される効果がある、というものです。

この「クセづけ」ですが、靴を履いていると足に痕がつきますが、これが目に起きているようなイメージです。ただし、角膜が押されて曲がったりするわけではなくて、丸い角膜の上に台形のような形のレンズを載せることで角膜とレンズの間の涙の層に薄いところと厚いところを作り、涙の圧の変化を作り出すことで角膜上皮の形状を変えている、という理論です。角膜上皮というのは、皮膚でいうなら表皮に相当する部分で、この角膜表面の上皮細胞が角膜中央部では薄くなり周辺部では厚くなることで、角膜全体の丸いカーブのてっぺんが平坦になったような形になり、近視が矯正されます。

20世紀半ばから考案されていた方法ですが、コンタクトレンズの素材が良くなったり、いろんなコンピュータ機器が発達したりしたこともあり20世紀の終わり頃になり実際に使用可能なレンズが市場に出回るようになり、さらに2011年以降になって世界中に急速に広まってきています。

さて、このオルソケラトロジーですが、レーシックをしたくてもできない未成年の方や、手術の決心がつかない方に人気のようですが、本当に良いことばかりなんでしょうか。何か問題はないんでしょうか。

一番気をつけなくてはならない合併症は、角膜感染症です。しかし、その頻度は決して多くなく、1300眼に1例、つまり0.07%という報告があります。同じ論文では、普通のソフトコンタクトレンズで感染症を起こす確率は0.2〜0.25%と書かれているので(統計の取り方によって多少の違いは出ると思います)、普通のコンタクトと比べてすごく悪いというわけではないようです。病原微生物の中で多いものは緑膿菌とアカントアメーバで、稀に真菌(カビ)も見られるらしく、これも普通のコンタクトレンズ感染症と大差ありません。(ただし、どれも感染すると大変なことになる可能性がありますので、決して甘く見ないでください。)ただ、特筆すべきは、オルソケラトロジーをするのは10代の若い人に多く、また、感染症を起こす人の半分はレンズ装用を始めて2年以内の人だそうで、やはりレンズの管理や普段の取り組み方が非常に大事である、レンズを使い始める時にその意識をしっかり持ってもらうことが大切、と論文の著者は締めくくっています。

従来の常識で考えるとコンタクトレンズは寝る時には外さなくてはならないものですが、オルソケラトロジーはその常識に反して寝ている間にレンズを装用します。それで何か目にキズがついたり、取り返しのつかない問題が起きるのではないか?という疑問が当然わきますが、論文を調べる限りはそういうことはなさそうです。一昔前、コンタクトレンズの無茶な装用でよく見られていた角膜内皮障害もないようです。

ただ、レンズのフィッティングが適切でないと、ちゃんと効果が出なかったりするし、傷がつきやすくなったりもするので、定期検査は重要です。

それでは逆に何か大きなメリットは期待できないのでしょうか? 近視が進行する青少年期に使用されることが多いオルソケラトロジーですが、例えば、近視の進行が止まるとか? 

最近近視の進行を抑える可能性のある治療法がいくつも登場してきました。例えば、近視の進行予防メガネとか、点眼とか。オルソケラトロジーも多少は近視の進行予防に効果がある、というデータもあります。しかし、結論からいうと、それはたくさんの人をまとめて調べた時の統計的な値で、さらに数値としての効果はそれほど大きいものではなく、一人一人の個人で見ると非常にまちまちで確実な効果が期待ができるというほどではありません。また、10年以上の長期的な効果やオルソケラトロジーをやめたときにどうなるのか、ということについてはまだわからないことも多く、プラスのメリットを期待するのはまだ早いようです。

結論を述べると、オルソケラトロジーはそれほど危ないものではないけれど、使用法や管理方法については十分な注意が必要で、特に未成年のお子さんの場合には、ご両親がしっかり注意してあげる必要があることは確かなようです。また、何か調子が悪かったリおかしいと思った時には自分で判断しないですぐ病院に行って相談するという姿勢が大切、というのに尽きるようです。

私自身は、寝る時にコンタクトレンズをつけて寝るって余計にストレスじゃないのかな? 大人になってしまったら毎晩コンタクトをつけて寝るよりレーシックなどの手術をしてしまった方が楽なんじゃないかな?と思っていたのですが、最近のデータを改めて見て、忌避するほど悪いものでもないことが確認できて安心しました。でも、万人に良い方法というのはないものなので、皆様、しっかり眼科で相談して気をつけて使ってくださいませ。

参考文献

Liu YM et al. The Safety of Orthokeratology–A Systematic Review. Eye Contact Lens. 2016 Jan;42(1);35-42.

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