レーシック エクストラ(LASIK Xtra)に関する文献的な考察

前回、レーシックに「角膜強化」のオプション(いわゆるレーシックエクストラ;LASIK Xtra)が必要かどうかについて、私見を書きました。

自分の意見を書くだけでは主観的になってしまうので、今回は、2020年11月現在、世界ではこのLASIK Xtraという治療がどのように評価されているのかについて、文献的な考察を書きたいと思います。
つまり今日は、現時点で出版されている論文のレビューを行います。

論文が絶対とは言いませんし、ある時にすごくインパクトのある論文が発表されて、一時期みんながそれを信じていたとしても、また何年かしたら、前に発表された論説を覆すような事実が発見されて常識が変わる、ということはあり得ます。だから、ここに書くことが未来永劫ずっと正しい解だ、ということはありません。
ただ、現時点で、世界ではこういうことが言われているんですよ、ということを知っておくのは悪いことではないと思います。

むしろ「これが良いよ」というなんだかぼんやりとした「他人の意見」に振り回されるのを回避するためには、「現時点でわかっている事実」を集めて、それを元に自分で判断するしかありません。

ただ、日頃から論文を読み慣れてないと、なかなか読み方も解釈の仕方もわからないものです。
なので、せめてエッセンスを日本語に直してお伝えできるように、まとめてみようと思います。

PubMedという医学論文の検索サイトがあります。私たちもよく利用するサイトです。
このサイトで、「LASIK Xtra」という語を検索すると、2020年11月9日現在、14本の論文がヒットします。
つまり、LASIK Xtraについてはまだ世界中で論文がそんなにたくさん出版されていない、やっている人が少ない、ということを意味します。残念ながら、日本発の論文は一本もありません。

それでは、順番に見ていきましょう。

Review of current indications for combined very high fluence collagen cross-linking and laser in situ keratomileusis surgery.

Kanellopoulos先生は、屈折矯正や円錐角膜の分野ではよく知られた人です。ギリシャ人と思われますが、アメリカでの生活が長かったようで英語が上手です(余談ですが、英語が流暢な人は当たり前かもしれませんが、国際的な学術会議などでも活躍しやすい傾向があります)。彼が2013年に出した論文が、LASIK Xtraという検索で引っかかってくる一番古い論文です。

個人的な感想;彼が2000年代初頭から色々試してきた方法について列挙して述べてますが、あまり具体的なデータは示されていませんね。

In vivo Confocal Microscopy Report after Lasik with Sequential Accelerated Corneal Collagen Cross-Linking Treatment.

Mazotta先生というイタリアの先生の論文です。この先生もクロスリンキングではかなりの有名どころです。
この論文は1症例の報告で、33歳の角膜形状が正常な-5.0Dの近視の女性に、ごく普通の方法でレーシックを行い、その後フラップをめくったまま角膜実質に0.25%リボフラビンを90秒間浸漬させ洗浄し、フラップを戻して30mW/cm2で90秒間紫外線を連続照射しています(総エネルギー量2.7J/cm2)。そして、術1週間後、3ヶ月後、6ヶ月後に、生体共焦点顕微鏡で角膜の状態を観察した、というものです。
結果は、特に大きな問題は見当たらなかったものの1例の報告であり、より多くの症例数を用いた前向き研究が必要と結論づけています。

Epithelial remodeling after femtosecond laser-assisted high myopic LASIK: comparison of stand-alone with LASIK combined with prophylactic high-fluence cross-linking.

Kenellopoulos先生の論文です。LASIK Xtra(67眼)と普通のLASIKをした人たち(72眼)の、術後の角膜上皮層の厚さを比較しています。
一般的に、LASIKで角膜実質を削ると、人間の体には直ろうとする力が働くので、角膜上皮が少し厚くなって薄くなった角膜を補おうとするのです。その変化を捕らえるために、上皮の厚みがどのぐらい増加したかを調べて比較しています。
手術方法は、レーシックでレーザー照射をした直後にフラップをめくったままの状態で0.1%リボフラビンを実質に60秒間浸漬し、その後フラップを戻し、30mW/cm2で80秒間紫外線を照射しています。
結果は、LASIK Xtraをしたグループの方が、特に高度近視眼で上皮の厚みが増加しなかった。このことから、LASIK Xtraをした方が角膜の形状が安定しているのかもしれない、と結論づけています。

個人的な感想;矯正度数ごとの角膜上皮の厚みのデータは詳細に揃っていますが、視力や屈折の詳細なデータがない、フラップの厚みのデータがないところが、ちょっと片手落ちな気がして、どうして査読でそこが指摘されずに掲載されたのか、やや不思議な気がします。

Comparison of prophylactic higher fluence corneal cross-linking to control, in myopic LASIK, one year results.

同じく、Kanellopoulos先生の論文です。LASIK Xtraをした73眼と、普通のLASIKをした82眼を、術後1年間調べています。術後の視力や屈折度数にはほぼ差がなかったが、1年後の安定性の部分でLASIK Xtraがやや優れていたと言う結果でした。しかし、それ以外の項目では両者には差はなかったということでした。

Consecutive laser in situ keratomileusis and accelerated corneal crosslinking in highly myopic patients: preliminary results.

筆頭著者のTan先生はシンガポールの人ですが、共著者はクロスリンキングの器械を販売していたAvedro社の関係者です。
強度近視眼(-8.00D〜-19.00D)に70眼LASIK Xtraを、64眼にLASIKを単独で行い、結果を比較しています。3ヶ月後の視力は、LASIK Xtraを行なったグループの方でばらつきが少なかったとしています。LASIK Xtraを行なった方が、術後早期に屈折が安定する可能性があるかもしれない、と結論づけているようです。

個人的な感想:近年では-8.00Dを超えるような強度近視眼にはLASIKはあまり行われなくなっている上、術後3ヶ月は評価するには早すぎると思います。

Lasik Xtra(®) Provides Corneal Stability and Improved Outcomes.

2015年の時点での、LASIK Xtraのレビュー論文です。
共焦点顕微鏡で観察した角膜実質細胞の変化は通常のクロスリンキングとほぼ変わりなし。内皮障害はないということです。
臨床的な成績は、全般的にLASIK Xtraを行なった方が、LASIK単独に比べて屈折度数の安定が良いと述べています。
安全性に関しては、特に大きな合併症はなく、LASIK単独に比べて劣る結果ではなかったとしています。
結論としては、安全性に問題がなく、術後屈折度数が安定していることより、LAISK Xtraは有効な手段であるとまとめています
この論文は査読のあるちゃんとした雑誌に掲載されていますので、論文の質や客観性には問題はありませんが、著者はクロスリンキングの器械を販売していたAvedro社の関係者であることは言い添えておきましょう。

Comparison of the Demarcation Line on ASOCT After Simultaneous LASIK and Different Protocols of Accelerated Collagen Crosslinking: A Bilateral Eye Randomized Study.

LASIK Xtraを2種類の紫外線照射で行なって比較した論文です。LASIKを行い、フラップをめくったまま0.22%のリボフラビンを実質に90秒間浸漬させ、その後、18mW/cm2の紫外線を2分照射したグループと3分照射したグループでデマルケーションラインを比較しています。デマルケーションラインというのは、クロスリンキングの後1ヶ月前後で角膜実質に見られる線状の濁りのことで、普通は見え方にはほとんど影響はありません。デマルケーションラインの深さは、クロスリンキングがしっかり効いている目安になると考えられています。
結果は、2分照射より3分照射の方でデマルケーションラインが濃くはっきりと出ていたようですが、深さは両者の間で違いはなかったとのことです。差が出なかった理由としては、3分照射の方は、酸素供給が途中で追いつかなくなったからではないか、と考察しています。

Simultaneous Accelerated Corneal Crosslinking and Laser In situ Keratomileusis for the Treatment of High Myopia in Asian Eyes.

シンガポールからの論文です。-6.0D以上の近視に対してLASIKXtraとLASIK単独で行なった50眼ずつを比較しています。術後3ヶ月時点の視力や屈折度数、合併症の有無を調べていますが、視力、屈折度数、内皮細胞数とも両郡に有意差なく、遜色ないデータだったと記載されていますが、術後の角膜拡張症予防という観点からは、さらに長期の経過観察が必要と著者らも書いています。

個人的な感想;術後3ヶ月で物をいうのは早すぎです。せめて1年は経過を見ないと、結論は言えないと思います。

Corneal Stability of LASIK and SMILE When Combined With Collagen Cross-Linking.

ウサギを使った実験の論文です。ウサギ6眼ずつにLASIKとSMILEをそれぞれ行い、5眼ずつにLASIK XtraとSMILE Xtraを行なっています。
LASIK, SMILE, SMILE Xtraでは術後に後面のカーブが大きくなっていますが、LASIK Xtraでは後面に変化なかったことより、LASIK Xtraは通常のLASIK単独に比べて角膜拡張症を予防する効果があるかもしれない、と結論づけています。

個人的な感想;動物実験の結果ですので、参考程度に考えた方が良いですね。ヒトとウサギは違いますので。

Review of Laser Vision Correction (LASIK, PRK and SMILE) with Simultaneous Accelerated Corneal Crosslinking – Long-term Results.

シンガポールからの論文です。10本のLASIK Xtraの論文、4本のPRK Xtraの論文、そして、1本のSMILE Xtraの論文をレビューしています。全体としては、術後の屈折度数や角膜形状の安定性という意味では、LASIKやPRKなどの屈折矯正手術にクロスリンキングを同時施行するXtraの方が安定性が高かったという結果が出ているようです。しかし、角膜拡張症や、びまん性炎症、Central toxic keratopathyなどの合併症も報告され始めているとも記されています。全体的なまとめとしては、角膜拡張症の予防という観点からXtraを追加で行うことが有意義かどうかはわからない、最適な紫外線照射の条件を含めて、さらなる検証が必要とまとめています。

Topometric Indices And Corneal Densitometry Change After Corneal Refractive Surgery Combined With Simultaneous Collagen Crosslinking.

タイの先生の論文です。
14例25眼にLASIK Xtraを行なった成績のまとめです。6ヶ月まで経過観察しています。
患者さんは、全員-6.0D以上の近視で、角膜厚が500 µ以下。PRKまたはLASIK後、0.22%リボフラビンを実質表面に90秒浸漬し、30mW/cm2で90秒間(2.7J/cm2)照射しています。PRK Xtraを5眼、LASIKXtraを8眼、SMILE Extraを12眼に行なっています。LASIKXtraは−10.32 ± 2.36D、SMILEXtraは−7.17 ± 2.27Dというかなり強い近視に対して手術をしています。
術後6ヶ月まで経過観察し、屈折度数は安定だったと報告していますが、XtraをしていないPRK・LASIK・SMILE単独の症例との比較がありません。またLASIK Xtraの術後に1例感染症を起こしていますが、これは術式とは別のものと推測されます。

Comparison of Femto-LASIK With Combined Accelerated Cross-linking to Femto-LASIK in High Myopic Eyes: A Prospective Randomized Trial.

ドイツからの論文で、LASIK XtraとLASIK単独を前向きに12ヶ月比較した論文です。臨床研究登録も行われています。
26人の患者の片眼にLASIKを、反対眼にLASIK Xtraを行なっています。どちらも屈折度数は-7.5D前後で両郡間に差はありません。術後12ヶ月まで経過観察し、視力、屈折度数共に、両郡間に有意差はなく、角膜拡張症の発症も見れらなかったことより、LASIK Xtraは通常のLASIKに比べて特に違いはないと結論づけています。

個人的な感想;論文の中でも、客観性が高いと考えられている前向きの比較研究です。研究デザインがきちんとしていて、結果の信頼性がより高いとされるタイプの論文です。 ただ、26人を1年比較しただけでは、LASIK Xtraの主目的とされる角膜拡張症の予防(角膜を強くする)ということについては、判断できないと思います。それでも、しっかり前向き比較研究をして、LASIK単独とLASIK Xtraの間に差がないというデータを出した意義は大きいと考えます。

Correlation and regression analysis between residual gradation and uncorrected visual acuity one year after refractive surgery with LASIK, FS-LASIK, PRK, PRK Xtra techniques and the implantation of ICL® posterior chamber phakic lens in myopic correction.

スペインからの論文です。
後ろ向き研究で、LASIK、FS-LASIK, PRK、PRK Xtra、ICLを受けた人たちの成績を調べていますが、LASIK Xtraは行なっていないようです。

Three-Year Outcomes of Simultaneous Accelerated Corneal Crosslinking and Femto-LASIK for the Treatment of High Myopia in Asian Eyes.

シンガポールからの論文です。LASIK Xtraのデータの中ではこれまでで最長の3年の成績を報告しています。
85例163眼の-6.0D以上の近視眼にLASIKXtraを行い、そのうち67眼が、69眼は2年、43眼は3年の経過観察を行ない、後ろ向きに結果を観察しています。屈折度数は安定し、安全性にも問題はなかったとしていますが、LASIK単独との比較がありません。

***ここから先は、私の個人的な意見のまとめです***

現時点ではまだデータが少ない状態ですが、一番信頼できる(論文として価値がある)ものはドイツのデータで、前向きにLASIKとLASIK Xtraを比較している論文だと思います。彼らは、LASIK Xtraをオプションでする意味はない、という結論です。
他の論文から判断すると、百歩譲って全般的にLASIK Xtraは多少術後の度数の安定性を上げる”可能性はあり”、安全性の面では問題がないとは言えると思います。しかし、本当に「角膜を強靭にする」という目的で行う価値があるか、と言うと、はっきり言うと「わからない」というのが結論です。

もともとLASIKは精度も安全性もとても高い手術です。ただ、あまり強い近視に行うと、見え方の質が落ちるため、最近では-6.0Dぐらいを超える強度近視にはあまり行われなくなり、代わりにICLが行われるようになってきています。強度近視に対してLASIK Xtraをオプションですることの意義については、個人的にはかなり懐疑的だと考えています。

ただ、冒頭に書いたように、医学は絶対というものではありません。現在わかっていないことが数年後に新たな事実として明らかにされることもたくさんあります。
なので、今回書いたことは、あくまで2020年11月現在の情報であり私の意見です。

その時その時でわかっていることをなるべく正確に患者さんにお伝えできるよう、常に最新の情報を入手し、真摯に診療に向き合いたいと思います。



    レーシック エクストラ(LASIK Xtra)に関する文献的な考察” に対して1件のコメントがあります。

    ICL(眼内コンタクトレンズ)手術を受けたので体験記【なぜレーシック ではなくICLにしたのか編】 | ROAD TO FIRE へ返信する コメントをキャンセル

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