円錐角膜眼への角膜内リング移植
今回は角膜内リングについて書きたいと思います。
角膜内リングは、前に書いたように、ハードコンタクトレンズのような材質の半弧状のリングを1〜2個、角膜実質の深い層に挿入する、という手術です。円錐角膜の矯正に使われるリングは、普通の近視矯正に使われるものよりも直径が少し小さめで5〜6mmのものが多いです。
どんな人に向いているのか?
初期の円錐角膜が一番向いている
ごく軽い円錐角膜の場合には、裸眼視力を上げる効果があります。
ごく軽いというのは、具体的には、裸眼視力が0.8〜1.0、メガネで矯正するともう1〜2段階上がるような人のことを指しています。そういう人の場合には、裸眼視力を1.0ぐらいにできることもあります。
この図は、円錐角膜の人に角膜内リングを入れる前と入れた後の角膜形状の比較です。赤い部分は角膜の突出が強い場所です。
角膜内リングを入れたことにより、突出部分が小さく、低くなっているのがわかります。
このケースでは裸眼視力が0.15から0.9に、眼鏡矯正視力が0.7から1.2に上がり、乱視も大幅に減りました。
中期の円錐角膜の場合は
円錐角膜が中等度(眼鏡矯正視力が0.5などに低下している)になってくると、角膜内リングの効果は不確実性が増してきます。
眼鏡矯正の時の乱視度数が減って矯正視力も少し上がる、という人もいれば、リングを入れてもほとんど視力も眼鏡の度数も変わらない、という人もいます。
一番悩ましいことは、手術をする前にその人に効果が出そうかそうでないかを予測するのが難しいことです。
重度は適応外
重度の円錐角膜には角膜内リングの適応がありません。つまり、角膜内リングを入れる時期を過ぎてしまっている、ということです。
角膜内リングの手術そのものは、難しいものではありませんし、5〜10分などの短時間で終わってしまいます。しかし、一番のポイントは、角膜内リングを入れることで得られるメリットを術前にしっかり見極めることだと思います。
角膜内リングは保険の使えない自費診療なので、高いお金を払い、怖い思いをして手術を受けて効果があまりなかったら、ガッカリしてしまうことでしょう。
合併症
角膜内リングの合併症については、感染、リングの周辺に白い沈着がつく、リングの上の角膜が融解してリングがはみ出してくる、などが報告されていますが、どれもそんなに多くはありません。また、もし合併症が起きても、リングを除去して必要な治療をすれば手術前に近い状態に戻ります。角膜の中心部は触らない手術なので、恒久的に視力が低下してしまう合併症は、理論上起きにくいと考えられています。
円錐角膜の進行は抑えられるのか?
時々「角膜内リングを入れれば、円錐角膜の進行が抑えられるのですか?」という質問を受けることがあります。これに対する答えは、残念ながら「進行は止まりません」です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32562024/
それどころか、有水晶体眼内レンズと同様、角膜内リングを入れた後に円錐角膜が進行すると、矯正効果が落ちてしまうことは当然あり得ます。角膜内リングも、円錐角膜の進行が停止したことが確認された人に行うのが原則です。
まとめ
私自身は、角膜内リングは、“悪くない手術”だと思っています。
ただ、先に述べたように、ごく軽度の円錐角膜の人には威力を発揮しますが、少し進んでしまうと手術をするメリットが急激に落ちてきてしまいます。
ですので、ここでも円錐角膜が軽いうちに早期発見し、早期に角膜クロスリンキングで進行停止させることの重要性を感じます。とにかく10代のうちに進行停止してしまえば、角膜内リングでも有水晶体眼内レンズでも、受けるかどうかは大人になってからゆっくり考えても良いのです。進行してしまうと、打つ手が少なくなってしまいます。
角膜内リングの解説でしたが、ここでも最後に言い添えたいことは、早期発見、早期治療が一番重要ということです。
先進的な技術があれば治るをモットーに、円錐角膜治療で進行を止めるための角膜クロスリンキングを日本で初めて導入した実績があり、国内の角膜クロスリンキング手術を牽引しています。また新しい角膜内皮移植DMEKの執刀ができる数少ないドクターの一人です。