花粉症によるアレルギー性結膜炎〜予防と治療〜
スギ花粉飛散情報によると、2022年の春は東日本では花粉の飛散量が多めになるようです。
アレルギー性結膜炎の中でも、スギやヒノキなどの花粉によるものは季節性アレルギー性結膜炎、ダニ・ハウスダストなどによるものは通年性アレルギー性結膜炎と呼ばれます。どちらも軽いタイプのアレルギー性結膜炎に分類されます。
東京都の調査によれば、スギ花粉症の有病率は、昭和58〜62年ごろには10%だったのが、その後10年ごとにどんどん増えて、現在では東京都全体で48.8%、ほぼ二人に一人が花粉症に罹患しているそうです。
特に、年齢が特徴的で、10〜29歳が一番多く60%を超えているようです。その上の年代もまあまあ多いです。今はもうどの年齢の人が花粉症になっていても不思議ではない時代と言えます。
さて、花粉症(ここでは結膜炎に限定して話をします)は軽いアレルギー性結膜炎とは言え、かゆい、涙が出る、腫れるなどの症状は不快ですよね。今回は、その不快な症状をなるべく軽くやり過ごすための方法について、書きたいと思います。
予防
花粉症を予防するには、とにかく花粉に暴露されないことが必要です。アレルギー体質がベースにあるほうがたくさんの花粉を浴びた時に花粉症を発症しやすい傾向はあると思いますが、これまで特にアレルギー体質ではなかった人でも毎年大量のスギ花粉を浴びていると、いつかスギ花粉症が発症する可能性があります。なので、とにかくスギ花粉を浴びないことが大切です。本当は、花粉症になる前から予防のためにマスクをしたりゴーグルをつけたりしていた方が良いのでしょうが、なかなか難しいですね。でも、今はみんなが感染症予防のためにマスクやゴーグルをつけているので、今年は花粉症を発症する人は少ないかもしれません。
すでに花粉症になってしまった人には、マスクやゴーグルはとても有効な手段です。最近では1月末ごろから春先にかけて、テレビの天気予報の時間などに花粉情報も出ますので、それを見て花粉が飛散しそうな日にはあらかじめゴーグル、マスクを装着するのは良い方法です。花粉が目の粘膜につきさえしなければ、花粉症の症状は出ません。
https://tenki.jp/forecaster/keiko_mochizuki/2022/01/28/15888.html
治療
1 花粉を洗い流す
花粉症の治療の基本は、花粉を洗い流すことです。結膜炎の場合には人工涙液などを3〜4滴点眼するだけでも効果があります。花粉症は即時型アレルギーと言って、抗原に暴露されてから数十分以内に起きる反応が主体です。そこで花粉が目についたままの状態にして、さらに痒くてこすったりすると、二次的に炎症が強まって症状の悪循環に陥ってしまいます。花粉が目に入ってしまった場合には、まずは花粉を点眼薬などで洗い流し、痒くても触ったりこすったりしないでしばらく我慢してください。新たな花粉に暴露されない限り、症状は30分以内に収まってきます。
2 アレルギー性結膜炎の点眼薬
市販薬
アレルギー性結膜炎の市販薬の成分を見てみると、大体は処方薬と同じような有効成分が入っています。けれど、濃度は薄いものが多かったり、消炎鎮痛薬のような成分が添加されていたり、さっぱりするような成分や防腐剤が複数添加されているようなものも多いようです。
私たち医師は、職場に行けば処方薬がすぐ手に入るので、自分で市販薬を使ってみた経験はあまりありません。しかし、数年前に眼科医の友人の一人が週末に花粉症の症状がひどくなって、仕方なく市販の抗アレルギー薬を使ってみたと言っていました。その人の感想は、
「さっぱりする成分が入っていても、大して効かない」
でした。
市販薬で症状がコントロールできる程度の軽い人ならいいですが、市販薬をつけても十分痒みが治まらない人は、諦めていくつも買うより、病院に行って薬を処方してもらった方が良いでしょう。
処方薬
処方薬には、現在何種類かの点眼薬があります。表に代表的な処方薬をまとめてみました。
薬品名 | 商品名 | 点眼回数(1日) | |
メディエーター遊離抑制薬 | クロモグリク酸ナトリウム アンレキサノクス ペミロラストカリウム トラニラスト イブジラスト アシタザノラスト水和物 | インタール® エリックス® アレギザール® ペミラスト® リザベン® トラ二ラスト® ケタス® アイビナール® ゼペリン® | 4回 4回 2回 2回 4回 4回 4回 4回 4回 |
抗ヒスタミン薬 | フマル酸ケトチフェン 塩酸レボカバスチン | ザジテン® リボスチン® | 4回 4回 |
メディエーター遊離抑制薬と 抗ヒスタミン薬の合剤 | オロパタジン エピナスチン塩酸塩 | パタノール® アレジオン® アレジオン®LX | 4回 4回 2回 |
① メディエーター遊離抑制薬
花粉症の人の結膜に花粉が付着すると、結膜内のマスト細胞という細胞から顆粒が分泌されます(脱顆粒)。この顆粒の中には、ヒスタミンをはじめとする痒みや血管拡張を引き起こす物質が含まれており、マスト細胞が脱顆粒することによって、痒みや充血、目の腫れ、涙が出る、などの花粉症の症状が起きます。メディエーター遊離抑制薬には、このマスト細胞の脱顆粒を阻害するような成分が含まれています。
痒み物質がマスト細胞から放出されるのを防ぐため、花粉症の発症を予防する効果がある薬です。花粉が飛散する2週間ぐらい前から点眼を開始しておくと、症状が出にくくなる、あるいは軽く済むと言われています。
② 抗ヒスタミン薬
マスト細胞から放出されたヒスタミンは、結膜のヒスタミン受容体に結合して痒みや血管拡張を起こします。ヒスタミンが受容体に結合するのをブロックするのが抗ヒスタミン薬です。メディエーター遊離抑制薬と違って、痒くなってしまった後に痒みを抑える効果があるとされています。
③ メディエーター遊離抑制薬と抗ヒスタミン薬の合剤
近年では、メディエーター遊離抑制薬と抗ヒスタミン薬が合剤になった点眼薬も市販されています。これらの薬は、1剤で痒みの予防と治療の両方の効果があります。
④ 低濃度ステロイド点眼薬
①〜③の点眼を使用しても十分に効果が得られない時には、かゆい時だけ低濃度ステロイド点眼薬を処方することもあります。ステロイドはとてもよく効きますが、漫然と使用すると副作用が出ることもあるので、自己判断ではつけないほうが良いでしょう。代表的な副作用としては、眼圧上昇(特に若い人の方がステロイドで眼圧が上がりやすい)、易感染性(細菌などがつきやすくなる)があります。
しかし、花粉症の時に処方されるようなステロイドは、大抵はごく弱いものなので、健康な人で1〜2週間程度の使用したぐらいで重篤な副作用が起きることは稀です。
これらの薬は、それぞれのグループで作用機序が違います。二つ以上つけるのであれば、違うグループの薬を組み合わせて使うのが効果的です。
例えば、花粉飛散前から①の薬を使い、実際に飛散し始めて痒くなってきたら②の薬を追加で使う。または、二つ使うのが面倒なら最初から③ を使う。そして、それでもさらに痒みがコントロールしきれないようなら④も使う、と言った具合です。同じグループ内の薬を複数使うのはあまり意味がありません。
これらの予防と治療をうまく使い分けて、なるべく目をこすらないでいいぐらいに痒みをコントロールしてうまく花粉の季節を乗り切りたいものです。
先進的な技術があれば治るをモットーに、円錐角膜治療で進行を止めるための角膜クロスリンキングを日本で初めて導入した実績があり、国内の角膜クロスリンキング手術を牽引しています。また新しい角膜内皮移植DMEKの執刀ができる数少ないドクターの一人です。