眼科感染症の予防は目を触らないことと手を洗うこと

新型コロナウイルス流行の影響で、いろんなイベントが中止になっています。

私たちも、今週は木曜日から学会の予定でしたが、2日前になって中止が決まりました。何しろ政府から大規模イベントの中止要請も出たし、この時期に敢えて開催をしない、という判断は仕方のないものだったと思います。

おかげで、私は仕事も入れてないので今週はデスクワーク三昧です。ブログ書く時間もできました。

そして今度は、全国の小中学校・高校に来週から休校の要請が出されました。

確かに、まだ全貌が明らかになってないけど、重篤な感染症が蔓延しつつある状態で、休校の判断はそれはそれでありなのかもしれません。

ただ、このニュースを聞いたとき、シンプルに「それ、低学年の子供を持つ家庭は大変だろうな」と思ってしまいました。小学校低学年の子供って、1日一人で家に置いておけるもんじゃないし、たとえ親が在宅勤務を許されたと言っても、家に小学生がいて、どこにも行けない状態だったら、仕事に集中もできないだろうなあ。高学年や中学生になると、エネルギーが溢れた彼らが1ヶ月も家に閉じこもってるはずがないので、逆に一人で、とか友達といろんなところに行ってしまわないか、も気になります。

と思ったら、案の定、いろんな議論が起きてますね。

さて、眼科の業界でも、学会等から「コロナウイルスで結膜炎になる」「コロナウイルスは結膜炎から発症する」というようなお知らせが回ってきています。

このお知らせ、最初に見たときの私の感想は、

「うん、そういう可能性、あるでしょうね」

です。

眼科医にとって、これはそんなにびっくりするほどのニュースではありません。さもありなん、あり得るでしょ、って感じです。

だいたい多くのウイルス疾患は、結膜炎を起こし得ます。

たとえば、通称流行り目(はやりめ)という名前で知られる、流行性角結膜炎(通称EKC: epidemic keratoconjunctivitis)。これは、主としてアデノウイルスという風邪の原因ウイルスによって起きます。

他にも、エンテロウイルスとかコクサッキーウイルスで起きる結膜炎もあるし、ヘルペスウイルスも結膜炎の原因になります。

全身症状の方が目立つからかあまり患者さんは眼科に来ない気がするけど、麻疹とか風疹とかも結膜炎を起こし得ます。

そして、眼表面は粘膜なので、飛沫感染や接触感染でウイルスがつけばうつる、というのも眼科関係者の常識です。

だから、私たちは、ウイルス性結膜炎と思われる人がきたら、できるだけ隔離して、その人が触ったところは消毒します。

さて、新型コロナウイルスの結膜炎がどのぐらい感染力があるのかについては、まだ不明な部分が多いです。

普段我々が外来で一番警戒しているのは、上記のアデノウイルスなどによる流行性角結膜炎です。このウイルスは感染力が強く、したがって流行性角結膜炎は学校伝染病にも指定されていて、かかると約1週間登校禁止になります。

なので、本当にコロナウイルスに対しては同じでいいかどうかわからないけど、ウイルス性結膜炎の基本として、流行性角結膜炎とその感染予防について書きたいと思います。

まず、感染している疑いのある人の症状は

  • 目やに・涙が出る。ただし、べっとりとした緑色の膿のような目やにではなく、薄くて涙のような目やにが主体。
  • 充血する。あっかんべーをして見たら、白眼のところだけでなく、まぶたの裏側の粘膜が赤くなっている。
  • ゴロゴロする。
  • 時に痛い。
  • まぶたが腫れる。

などです。

流行性角結膜炎の場合には、眼科に行けば迅速診断キットがあります。ただし、この迅速診断キットは、陽性に出ればまず間違いなく流行性角結膜炎ですが、陰性に出ても100%否定はできません(偽陰性)。検査をする時期にもよりますし、あと、目やには検体の量としては少ないので、必ずしも陽性に出るとは限らないのです。

なので、最終的には症状とか所見も含めて、眼科医が総合的に判断します。

そして、もし流行性角結膜炎と診断されたら、たいてい点眼薬が処方されますが、点眼薬はほとんど効果がありません。というのは、アデノウイルスをはじめとしてウイルスに効く薬がないからです(ヘルペスウイルスだけは薬があります)。

なので、処方される薬は、炎症を和らげるための低濃度ステロイド点眼と、混合感染予防のための無難な抗生物質などです。でも、このステロイド点眼や抗生物質の投与についても、本当に投与した方が良いかどうかについては議論の余地ありなんですが、実際はたいてい何かしら処方されます。

あとは、体の免疫が結膜炎を直してくれるのを待つだけ。たいてい1週間ぐらいはかかります。多くの人は最初に片眼に発症して、1〜2日遅れて反対眼にも発症しますが、先に発症した方が症状が強くなります。

感染力は潜伏期間(3〜7日ぐらい)からあるのですが、基本的には接触感染で、ウイルスを持っている人が涙や目やにを触った手などで周りのものを触ったり、他人に触れたりして、それを別の人が触ってウイルスのついた指で目を触ることによって感染する、と言われています。なので、眼科では、流行性角結膜炎の患者さんが触れたところを全部消毒して歩きます。それこそ、診察器具も、座った椅子も、ドアを開けたらドアノブも全部拭きます。

私たち眼科医は、患者さんに触れる時に、(右利きの場合は)必ず左手で触るように習慣づけています。右手は、原則患者さんに触れません。そして、患者さんを診察して粘膜や涙や目やにに触った時には、流水と石鹸で手を洗います。特に、感染性のある結膜炎の患者さんに触れた後には、そのまま洗面台に行き、洗うまで診察器具もボールペンも何も触りません。水道の蛇口を開けるときにも、なみだや目やにのついた指先で触ることはなく、綺麗な方の手や、レバー式のものなら手首を使って栓を開きます。

同居している家族がいる方は、家族にうつさないようにする方法も基本的には同じです。

感染している人は、顔に触れた後は必ず手を流水と石鹸で洗うようにします。

涙をふいたティッシュペーパーなどはそのまま他のものに触れないようにして捨てるようにします。涙や鼻水がついた手は、他のものを触る前に必ず流水と石鹸で洗います。

タオルや枕などは一人一人全て別にしましょう。

それでも潜伏期間にうつっていることが多いので、家族全員発症する、というケースはよく見かけます。

実は、私は眼科医になって30年近く立ちますが、まだ一度も流行性角結膜炎にかかったことがありません。毎週のように複数の流行性角結膜炎の患者さんを診察しているにもかかわらず、です。そういう眼科医は私だけでなく、周りに結構たくさんいます。

なので、上記の予防法は、(少なくともアデノウイルス程度の感染力のものには)それなりに有効だと思います。

あと、余談になりますが、病院というのは原則いろんな菌がいる場所なので、私たち医療従事者は病院でボールペンでもパソコンでも、何か触った場合には、手を洗うまではものを食べたりしないし、家に帰る時も白衣を脱いだら必ず流水と石鹸で手を洗っています。

コロナウイルスによる結膜炎は、もちろんまだ自分自身が診察したこともないし、アデノウイルスより感染力が強いのか弱いのかもわかりませんが、とりあえず眼科感染症予防の基本は、

なみだや目やにに触らない、触ったらすぐ手を洗う、です。

石鹸と流水による手洗いはかなり有効です。

皆様も、お気をつけください。

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