経上皮照射法(エピオン法)を始めました
私たちが、円錐角膜の進行を停止させる治療である角膜クロスリンキングを始めたのは、10年以上前のことです。
角膜クロスリンキングには、最初に発表された標準法(ドレスデン法)のほか、いくつかの変法があります。
標準法では、麻酔をした上で角膜上皮(黒目の一番表面の皮)を剥がし、リボフラビンを十分に点眼したのち、紫外線を30分間照射していました。
標準法は手術時間が長く、患者さんも30分間ずっと紫外線ランプを見つめていなければならず大変だったこともあり、私たちは途中から高速照射法といって短い時間で紫外線照射ができる方法を採用しました。
ただし、最初は新しい方法であることに同意していただいた10名の方にのみ行い、1年間術後の状態を確認しました。その上で、標準法とまず遜色のない結果が得られるとわかったため、その後は現在に至るまで速照射法をメインで行なっています。
ところで、標準法も高速照射法も、角膜上皮を剥がすところは同じです。そうすると、術後は角膜に大きな傷ができるので、麻酔が切れた後、患者さんは目がゴロゴロして痛くなってしまいます。なるべく痛みが少なく済むように、鎮痛剤を処方したり、絆創膏がわりに治療用のソフトコンタクトレンズをつけてもらったりしますが、痛みがゼロにはなりません。また、痛みには個人差があるために、涙がぼろぼろ出て一晩目が開けられなかった、という方もいます。
この、痛みという問題を解決するために、経上皮照射法(エピオン法)という方法があります。
経上皮照射法では、点眼麻酔をした後、添加剤の入ったリボフラビンを点眼します。すると、添加剤の作用で、リボフラビンが細胞の間をとって角膜全体に染み込むことができるようになるため、上皮を剥がなくても良いのです。当然術後の痛みもかなり緩和されます。
この経上皮照射法を採用すべきかという話は、以前から何度か出ていました。
ただ、経上皮照射法はとても魅力的な方法ですが、標準法に比べて明らかに効果が弱いのではないか、という懸念が長い間ありました。そして、実際に、当初の経上皮照射法は標準法に比べて、特に若い人で効果が弱いというデータが海外から発表されていました(下記参考文献)。
ところが最近になり、経上皮照射法の紫外線照射をパルス照射(紫外線を点滅させる)にして、さらに酸素を吹き付けながら10分間照射する方法が開発されました。そして、この新しい方法であれば標準法と同じぐらいの効果が得られるということです。
そこで、私たちも、今年に入ってからこの新しい方法での経上皮照射法を始めることにしました。
ただし、メーカーが示しているデータはまだ1年以内の短期的なもので、また人数もまだ限られています。なので、当分の間は誰にでも行うわけではなく、26歳以上で、軽度から中等度の円錐角膜の方に限定して、長期的なデータがまだない状態だということをご理解いただいた上で行っています。
痛みがない、というのは、患者さんにとってはとても大きな魅力的だと思いますが、1〜2日の痛みと引き換えに、長期的な結果が良くないというのは避けなくてはなりません。特に、一般的に円錐角膜の進行速度が速い10歳代から20歳代前半の方への適応拡大は、もう少し先になりそうです。
参考文献
- Ziaei M, Vellara H, Gokul A, Patel D, McGhee CNJ. Prospective 2-year study of accelerated pulsed transepithelial corneal crosslinking outcomes for Keratoconus. Eye (Lond). 2019 Dec;33(12):1897-1903.
- Wen D, Song B, Li Q, Tu R, Huang Y, Wang Q, McAlinden C, OʼBrart D, Huang J. Comparison of Epithelium-Off Versus Transepithelial Corneal Collagen Cross-Linking for Keratoconus: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cornea. 2018 Aug;37(8):1018-1024.
- Kobashi H, Rong SS, Ciolino JB. Transepithelial versus epithelium-off corneal crosslinking for corneal ectasia. J Cataract Refract Surg. 2018 Dec;44(12):1507-1516.
- Li W, Wang B. Efficacy and safety of transepithelial corneal collagen crosslinking surgery versus standard corneal collagen crosslinking surgery for keratoconus: a meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Ophthalmol. 2017; 17: 262.
- Zhang X, Zhao J, Li M, Tian M, Shen Y, Zhou X. Conventional and transepithelial corneal cross-linking for patients with keratoconus. PLoS One. 2018 Apr 5;13(4):e0195105.
先進的な技術があれば治るをモットーに、円錐角膜治療で進行を止めるための角膜クロスリンキングを日本で初めて導入した実績があり、国内の角膜クロスリンキング手術を牽引しています。また新しい角膜内皮移植DMEKの執刀ができる数少ないドクターの一人です。