エピオン角膜クロスリンキング−成績と実情−

前回、レーシックXtraについて、出来るだけ正確な記事を書こうと力を入れたら、ちょっとした総説論文を書くぐらいのエネルギーを使いました。でも、出来上がって思ったことは、この手の情報発信をした方が迷っている人のお役に立てるのではないかと言うことです。
というわけで、今後も出来るだけ学術的なことがらをわかりやすく配信していきたいと思います。

ただ、この手の記事をまとめるのは結構大変なので、頻度は少なくなるかもしれません。何しろ本業の合間に書くことになりますので、その辺はご容赦ください。

さて、今回は、角膜クロスリンキングのエピオン(Epi-On)法について書こうと思います。
以前にも一度エピオン法については書いたことがあります。

現在、日本の角膜クロスリンキングは、エピオン法がエピオフ法(Epi-Offまたは標準法)の数をやや上回っている、つまり日本国内で行われている角膜クロスリンキングの半分強がエピオン法というのが現状です。

では、このエピオン法の成績はどうなんだろうか、と言うことで、今回も文献を見ていきたいと思います。

前回同様、PubMedという医学論文の検索サイトで、Transepithelial crosslinking(経上皮角膜クロスリンキング=エピオン法のこと)というキーワードで検索をかけると278本もの論文が出てきます。これを全部読むことは容易ではありません。そこで、Clinical trial、Randomized controlled trialとMeta-analysisで絞り込みをかけると22本、Review、Systematic reviewで絞り込みをかけると27本という結果でした。この全てを解説することはできないので、新しいもの、重要そうなものを中心に解説したいと思います。

ではまず、メタアナリシスという手法の論文を検証したいと思います。あまり古い論文を見ても仕方がないので、過去5年分で絞り込みをすると4本出てきます。

メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。メタ分析メタ解析とも言う。(Wikipediaより)



Cross-linking in children with keratoconus: a systematic review and meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27678078/

18歳以下の若い症例への角膜クロスリンキングの成績について、13本の論文を分析しています。参照された症例数は401例490眼(年齢15.25±1.5歳)。8本の論文は前向き研究、5本は後ろ向き研究で、経過観察期間は1〜5年です。標準法(ドレスデン法;上皮掻爬あり、紫外線照射3.0mW/cm2×30分)、高速法、 Epi-On法を比較検討しています。
さらに、メタアナリシスとして9本の論文を分析しています。その結果、標準法は円錐角膜の進行を止める効果があるが、クロスリンキング後の再発率はエピオン法で高い。特に、18歳以下の若い症例には標準法での施術が望ましいと結論づけています。

Systematic review and Meta-analysis comparing modified cross-linking and standard cross-linking for progressive keratoconus.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28944203/

24本のクロスリンキングの変法(高速法、エピオン法など)の論文を評価しています。エピオン法に関しては10本の論文が検証されています。全て紫外線照射量は5.4 J/cm2。経過観察期間は、6ヶ月から3年です。
結果としては、エピオン法はデマルケーションラインが出る位置が浅い(標準法に比べて効果が弱い可能性あり)。しかし、効果が弱いことを分かった上で、(痛みが少ないので)小児症例や、(角膜内皮障害の可能性が低いので)角膜が薄い人には良いかもしれない、と結論づけています。

Conventional and transepithelial corneal cross-linking for patients with keratoconus.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29621306/

7本の論文の結果を検証しています。ほぼ全ての論文で紫外線照射量は5.4J/cm2です。結論は、エピオン法は、視力改善と角膜平坦化の点で標準法にやや劣る。もう少し改善が必要とまとめています。

Comparison of Epithelium-Off Versus Transepithelial Corneal Collagen Cross-Linking for Keratoconus: A Systematic Review and Meta-Analysis.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29847492/

8本の論文(455眼)を検証しています。1年の経過観察では、標準法とエピオン法でほぼ同じ程度の平坦化が得られたとしています。T-inoto CXL(イオントフォレーシスを用いたエピオン法)という術式も比較していますが、これが一番効果が弱かったようで、それに比べるとエピオン法、標準法とも平坦化が得られた、視力など他の指標には術式で差はなかったとしています。

イオントフォレーシス:
イオン導入は、生体組織に物質を送達するために電流を用いる技術。イオン化できる医薬品や化粧品の薬物送達に用いられる。
専用の2つの電極を用意し、適した片方の電極(陽極または陰極)に目標のイオン性の薬物を封入して低電流(約10V[4])を流すことで、薬物が組織に移行する(Wikipediaより改変)


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これらのメタアナリシスから、私は以下のように考えます。

① 過去のエピオン法の多くは、紫外線照射量が5.4 J/cm2であること。これは、標準法(ドレスデン法)と同じ紫外線照射量です。標準法では上皮を掻爬して、その下の角膜実質に直接紫外線を照射するのに対して、エピオン法では上皮にも紫外線が吸収されてしまうので、同じエネルギー量の紫外線を照射すれば、その下の実質に到達するエネルギーが少なくなるのは当たり前と考えられます。
したがって、当初のエピオン法が標準法より効果が弱いのは十分予想されたことであり、仮説通りの結果が検証されている気がします。

② エピオン法は、従来通りのやり方の場合には効果が弱そうなので、一般的に進行が速いとされている小児症例や20代前半ぐらいまでの症例に使用するのは、慎重になった方が良いと思います。
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次に、Randomized controlled trial で絞り込みをかけると、過去5年間で5本の論文が出てきます。

ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である(Wilkipediaより)



Standard corneal collagen crosslinking versus transepithelial iontophoresis-assisted corneal crosslinking, 24 months follow-up: randomized control trial.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27040458/

エピオン法と標準法の比較で、紫外線エネルギーはどちらも5.4 J/cm2です。エピオン法は効果が弱いという結論です。

Randomized Controlled Trial Comparing Transepithelial Corneal Cross-linking Using Iontophoresis with the Dresden Protocol in Progressive Keratoconus.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28283279/

イオントフォレーシスを用いたエピオン法(5.4J)と標準法の前向きRCTで、1年間経過観察しています。エピオン法でも形状、視力、屈折に改善は見られたが、平坦化の面で標準法の方がやや優れていたという結論。

Transepithelial corneal crosslinking for keratoconus.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29703286/

56例82眼にエピオン法を行っているが、5.4J/cm2の紫外線照射中リボフラビンを1分ごとに点眼するグループと2分ごとに点眼するグループに分ける。標準法との比較はなし。結果は、1分ごとにリボフラビンを点眼したグループの方が、1年後に裸眼視力と角膜形状がより改善したというもの。

Two-year outcomes of a randomized controlled trial of transepithelial corneal crosslinking with iontophoresis for keratoconus.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31003798/

2つ上の論文と同じ著者のものです。同じ臨床研究で2年間の経過観察の成績です。結果は、2年後には標準法の方がエピオン法よりも平坦化がみられたとしていますが、標準法の16%に術後に軽い角膜混濁が見られたと報告しています。

Epithelium-off versus transepithelial corneal collagen crosslinking for progressive corneal ectasia: a randomised and controlled trial.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27388250/

144眼をエピオン法と標準法に振り分けて、24ヶ月経過観察した結果です。標準法の方が強主経線上角膜屈折力に改善が見られました。視力は両者で違いはありませんでした。

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さて、ここまで見てきたところ、5.4J/cm2ではエピオン法は効果が弱いことはほぼ疑う余地はなさそうです

これは、みんながそう思ったようで、その後、世界の施設ではエピオン法の紫外線照射量を強くしたり、高速法を用いたりするところが出てきました。

標準法の紫外線照射量は、5.4 J/cm2(3.0mW/cm2×30分)です。
紫外線のエネルギーは、強度と照射時間の積なので、9.0mW/cm2×10分、18.0mW/cm2×5分、30mW/cm2×3分ならば同じエネルギー量であると言われています(ブンセン-ラスコーの法則)。

しかし、従来のやり方ではクロスリンキングの効果が弱いということで、紫外線照射量を30mW/cm2×4分(7.2 J/cm2)にしたり、10 J/cm2にして、さらにパルス照射にしたり、照射中に酸素供給をするという方法も登場しました。(クロスリンキングの反応を起こすには、空気中の酸素が必要なので、多くの酸素を供給した方が反応が強くなるという考え方に基づいています)。

そして、このようにここ数年は施設間でエピオン法のやり方にばらつきが出てきたために結果の比較検証がしづらくなってきている、というのが実態のようです。

そこで、現在アメリカで、新しいハイパワーのエピオン法(10 J/cm2の多施設臨床研究が実施されています

これは、かなりしっかりした研究デザインのもので、被験者をランダムに2群に分けて、一方には本当のEpi-On法によるクロスリンキングを、他方にはSham手術といって、手術を行っているように見せかけて使用する薬剤も紫外線照射も全く無効なものを用いて比較検討する形で、二重盲検法での試験です。この試験の結果がオープンになるのが、2021年の夏という予定になっています。(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03442751

新しいハイパワーのエピオン法がどの程度標準法に近い効果を持つのかは非常に興味をそそられます。

ただし、2021年の夏にオープンにされる結果は、最大でも12ヶ月までのものと推測されます。本当の長期経過がわかるまではまだ何年かかかりそうです。

角膜クロスリンキングには近年いろいろな方法が出てきましたが、それぞれの方法の特徴やわかっていること、いないこと、利点と欠点を十分に理解した上で、年齢や円錐角膜の状態も含めて、一人一人の患者さんに合った方法を選んでいくのが良いと思います。




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