円錐角膜の視力矯正〜外科手術編〜
円錐角膜が軽度の人はメガネでも視力が出ますが、中等度以上になってくると眼鏡では良い視力が得られなくなってハードコンタクトレンズなどが必要になってきます。
円錐角膜の視力矯正~さまざまなコンタクトレンズ〜
でも、ハードコンタクトは異物感があるし落ちることもある。というので、「何か手術などで直せないのですか?」と聞かれることがよくあります。
そこで今日は、円錐角膜の外科治療について書きたいと思います。
基本的に、円錐角膜に対する手術は、疾患の進行を止める手術と、視力矯正のための手術に大きく分けられます。
疾患の進行を止める手術は、角膜クロスリンキングのみです。
クロスリンキングについては、これまでに何度か書いていますので、そちらをご覧ください。
角膜クロスリンキングの現状
角膜クロスリンキングアップデート(2019年1月現在)
クロスリンキングは痛いの?
一方、視力改善のための手術には
1 有水晶体眼内レンズ
2 角膜内リング
3 角膜移植
4 白内障手術
があります。
ただ、これらの手術は、誰にでもすればいいというわけではありません。
それぞれの特徴について、述べたいと思います。
1 有水晶体眼内レンズ
有水晶体眼内レンズというのは、自分の水晶体を摘出することなく(取らずに)眼内レンズを眼球の中に入れる手術です。「眼内レンズを入れる」というと、一般的には白内障手術を思い浮かべる方が多いと思います。
白内障手術の場合には、自分の濁った水晶体を摘出して(取り除いて)、代わりの眼内レンズを入れます。しかし、有水晶体眼内レンズの場合には、自分の水晶体は摘出せずに、薄いソフトコンタクトレンズのような眼内レンズを眼球の中に入れます。
有水晶体眼内レンズはもともとは近視矯正のために開発された手術です。
大きく分けると前房型というレンズと、後房型というレンズがあります。後房型レンズの代表的なものが、近視矯正にもよく使われているICLです。
前房型というのは前房(角膜と虹彩の間の空間)にレンズを入れるものです。後房型レンズは、やはりソフトコンタクトのようなレンズを虹彩と水晶体の間の隙間に入れます。2000年代に有水晶体眼内レンズが登場した当時は前房型レンズが主流でした。しかし、その後後房型レンズ(ICL)がシェアを伸ばしてきて、現在では主流になってきています。
有水晶体眼内レンズは、前房型、後房型のどちらも、眼鏡で見える視力まで裸眼視力を向上させる効果があります。眼内レンズは眼鏡と同じように球面レンズ(近視・遠視の矯正レンズ)と円柱レンズ(正乱視矯正レンズ)の組み合わせで作られていて、不正乱視を矯正することはできません。なので、円錐角膜の中でもまだ程度が軽く、不正乱視があまりない、眼鏡矯正視力が良好な方に適しています。
もっとわかりやすく言うと、「眼鏡で1.0以上の視力が出る軽い円錐角膜」に向いています。
さらに、もう一つ大事な点は、有水晶体眼内レンズはすでに進行が止まっている円錐角膜に行うべきであると言うことです。せっかく眼内レンズを入れて矯正しても、その後で円錐角膜が進行してしまったのでは意味がなくなってしまうからです。
また、一般的に45〜50歳を過ぎた人には適していません。というのは、そのぐらいの年齢になると近い将来白内障手術をする必要性が増えてくるので、あえて数年間のために有水晶体レンズを入れるのはもったいないからです。
有水晶体眼内レンズは自費診療です。
2 角膜内リング
角膜内リングは、直径5〜6ミリ程度のハードコンタクトレンズのような材質の半弧状のリングを1または2本、角膜の深い層(厚みの75〜80%の部分)に入れ、角膜中心部をやや平坦で対称な形状に近づけるという仕組みの手術です。周辺部にリングを入れて中心部の形状が変化することについては、下の図のような説明が用いられています。イメージとしてはわかりやすいですね。
角膜内リングの原理を示すイラスト。周辺部にリングを入れることにより、角膜中央部のカーブが平坦になり、近視が減少する。(イラストは以下のリンクより引用)
http://www.oculist.net/downaton502/prof/ebook/duanes/pages/v6/v6c050.html
角膜内リングも、もともとは軽度の近視を矯正する器具として開発されたものです。通常の近視矯正に用いられるものは、直径が7ミリ程度と大きめでした。しかし、円錐角膜用として用いられるものは、より強い近視に対応できるように、直径を少し小さめにすることで矯正効果を上げるように設計されています。
角膜内リングの長所は、角膜の周辺部のみしか触らないために、視力を損なうような合併症が起きにくいと考えられていること、そして、何かあった場合にはリングを抜くことで元の状態に戻せること(可逆的であること)と言われます。
短所は、角膜内リングの矯正効果はあまり大きくないと言うことに尽きます。ごく軽い円錐角膜の場合には視力改善効果がありますが、中等度ぐらいになると効果が曖昧になってしまいます。重度の円錐角膜は適応外です。
また、もう一点重要なことは、角膜内リングには円錐角膜の進行を止める効果はありません。そして、角膜内リングを入れた後に円錐角膜が進行すると、当然ですが矯正効果が低くなってしまいます。進行が止まったことが確認できた眼にのみ行うべき手術です。
角膜内リングも有水晶体眼内レンズと同様、自費診療です。
3 角膜移植
円錐角膜は、角膜移植の原因疾患の中でももっとも予後の良い(結果の良い)疾患です。つまり、円錐角膜に対する角膜移植は、他の病気で角膜移植をするのに比べてかなり手術成績が良い、と言えます。
角膜移植には全層角膜移植、深層層状角膜移植の二種類があります。
全層角膜移植は、角膜のすべての層を取り替えるタイプの移植です。つまり、角膜上皮、実質、内皮の3つをすべてドナーの角膜と交換します。それに対して、深層層状角膜移植では、自分(ホスト)の内皮は残したまま、上皮と実質だけを取り替えます。技術的には深層層状角膜移植はやや難しく、手術時間も全層角膜移植より長くかかることが多いです。メリットは、術後の拒絶反応のリスクが大幅に抑えられること、そのため術後の投薬をいずれ中止できること(全層移植の場合には、生涯にわたり少量の点眼を続けることが多い)などです。
円錐角膜で深層層状角膜移植ができない代表的なケースは、すでに急性角膜水腫を起こした既往がある場合です。内皮細胞を裏打ちするデスメ膜という膜が一旦破れてしまっているので、内皮細胞だけを残すことが非常に困難だからです。その場合には最初から全層角膜移植が行われます。
ドナー角膜は眼内レンズなどの工場で製造される製品のようなわけにはいきません。角膜移植後の見え方は、非常にバラツキが大きく、移植後もハードコンタクトレンズによる矯正が必要な人も大勢います。また、角膜移植は臓器移植の一つで他人の組織をもらって自分の体に移植するわけですから、拒絶反応をはじめとした様々な問題があります。感染を起こしたりすることもあれば、長期にステロイド点眼薬を使用することで副作用が出たりすることもあります。
したがって角膜移植は、他のどの手段を用いても視力矯正が不可能な、最重症の人に行われる最終手段という位置付けです。コンタクトレンズが使えて視力が出る人には通常は行われません。
もう一つ重要なポイントは、近年では円錐角膜は早期のうちに角膜クロスリンキングで進行停止させられるようになったため、重症化例が減ってきたと考えられます。それを反映してか、円錐角膜が原因で角膜移植に至る人の数は、世界的に減少していると言われています。
4 白内障手術
円錐角膜のある人も、そうでない人と同じようにある程度の年齢になると白内障になります。普通は50〜60歳以降ですが、重症のアトピー性皮膚炎があったりする場合には早めに白内障になってしまうこともあります。
白内障手術は自分の水晶体を摘出して、代わりに眼内レンズを入れる手術です。眼内レンズの度数は、計算によってその人に適した度数を決められるため、術後の「なりたい状態」をある程度実現することができます。つまり、正視にしてほしい、とか、軽い近視にして眼鏡なしで本が読めるようにして欲しい、などの希望に添うことが出来ます。
重症の円錐角膜の方は強い近視性乱視がある場合が多いのですが、そのような人でも白内障手術をきっかけに近視の度数を大幅に減らすことが可能です。なので、円錐角膜の人は白内障手術をすると生活がとても楽になることがあるのです。
ただし、問題点が2つあります。1つは、白内障手術では乱視(特に不正乱視)は直すことが出来ません。手術の前からハードコンタクトレンズをしないと見えていなかった人は、術後も良い視力が必要な場合(運転の時など)にはハードコンタクトレンズを使用しなくてはならないことが多いです。
2つ目は、円錐角膜の眼内レンズ度数は計算が難しく、術前に希望した度数からずれてしまう可能性が高いことです。つまり、術前に「眼鏡なしで本が読める視力になりたい」と希望していたとしても、術後は思ったより遠くや近くにピントが合ってしまっているなどということがあります。なので、手術前にあまりに高い期待をされると、その通りにならずがっかりすることがあるかもしれません。普通の人の目よりは、いろんな意味で不確実性が高いことはわかっていただく必要があります。
しかし、円錐角膜で超強度近視の方が白内障手術を受けると、「これなら家の中なら裸眼で生活できる!」と喜んでいただけることは少なくないのです。
あと、余談ですが、最近では多焦点眼内レンズと言って、遠くも近くも見える遠近両用の眼内レンズが登場しています。術後に眼鏡がいらなくなるので便利ですが、円錐角膜の方には多焦点眼内レンズは向いていません。
以上が、円錐角膜に対する外科手術です。
ざっくり、コンタクトレンズも含めて、重症度に応じた手術法の適応を下図に示します。
ご覧いただくように、軽度のうちは、有水晶体眼内レンズや角膜内リングができるのですが、中等度以上になると手術では対応できなくなってしまいます。
その他にも、いろんな手術がありますが、現時点で十分なエビデンスがあって定着している手術は上記の4つでしょう。
ここに記載した通り、その人の目の状態、年齢、進行しているのかいないのか、など、いくつかの条件によってできる手術、期待される効果が変わってきますので、専門施設で自分にはどの方法が適切なのかをよく相談する必要があります。
先進的な技術があれば治るをモットーに、円錐角膜治療で進行を止めるための角膜クロスリンキングを日本で初めて導入した実績があり、国内の角膜クロスリンキング手術を牽引しています。また新しい角膜内皮移植DMEKの執刀ができる数少ないドクターの一人です。