円錐角膜と言われたら?
円錐角膜はごく軽症も入れると人口100〜200人に一人ぐらいと言われています。最近は、角膜クロスリンキングという方法で疾患の進行を止めることもできるようになってきているので、眼科医の間でも早期発見への関心が上がってきています。
今日は、「円錐角膜と診断されたらどうしたらいい?」ということを年代別に分けて書いてみたいと思います。
1. 小・中学生の場合
小・中学生で円錐角膜を発症してしまうのは非常に早いです。残念ながら、円錐角膜は発症が早いほど、進行も早く、重症になる傾向があります。
もし、小・中学生で円錐角膜と診断された場合には、なるべく早くに角膜クロスリンキングを受けて進行を止めるのが良いと思います。
小・中学生の場合には、角膜クロスリンキングの中でも角膜上皮を掻爬してしっかり実質に紫外線を当てる古典的な方法で行った方が良いでしょう。小児は円錐角膜の進み方が早く、古典的な方法の方が円錐角膜の進行を止める力が高いことが知られているからです。術後2〜3日痛みがありますが、痛み止めや治療用ソフトコンタクトレンズの装用でいくぶんは痛みを軽減することができます。
角膜クロスリンキングが終わって1ヶ月以上経過したら、それぞれに合った眼鏡やコンタクトレンズを処方してもらってください。注意点としては、この年齢の子供にはまずコンタクトレンズを処方して様子を見るのではなく、先に角膜クロスリンキングを行うべきである、ということです。
前回書きましたが、円錐角膜は軽いうちの方が矯正方法の選択肢もたくさんあります。小児の円錐角膜はあっという間に進むことがあるので、進んでしまう前に、早めに角膜クロスリンキングで進行停止をしてあげてください。
円錐角膜の視力矯正~さまざまなコンタクトレンズ〜
また、小児の円錐角膜は、角膜クロスリンキングをした後も進行が止まりにくかったり、一旦止まったように見えても、数年経ったらまた再進行が見られたりすることも最近知られるようになってきました。術後も10歳代のうちは年に2〜3回、20歳代になっても年1回ぐらいは通院して、進行してきていないか確認するようにしてください。もし再進行が見られた場合には、もう一度角膜クロスリンキングをすることができます。
2. 高校生・大学生の場合
高校生・大学生ぐらいの年齢は円錐角膜を発症する人が最も多い時期です。この時期に円錐角膜を発症した場合には、対応はケースバイケースになります。
もし円錐角膜になっていても、まだごく軽度の場合には数ヶ月おきに進行してこないか診察して、進行するようであれば角膜クロスリンキングで進行停止するのが良いと思います。
円錐角膜が見つかったとき、すでに中等度以上に進行しているようだったら、経過を見るよりも先に角膜クロスリンキングを受けてしまった方が良いと思います。
3. 20代半ばまたは後半の場合
20代半ばから後半の方の場合には、最初はまず数ヶ月ごとの経過観察をしてみて、円錐角膜が進行するようなら角膜クロスリンキングをお勧めしています。この時期になると一般的には小児症例のような急激な進行はしなくなってきます。
高校や大学を卒業して仕事を始めてしまうと、運転をしなくてはならない、パソコンの細かい数字を見なくてはならない、などの理由でどうしても良い視力が必要という人が増えてきます。そういう人にはコンタクトレンズを作成して、経過観察する間も日常生活での見え方をよくするようにします。
ただし、ハードコンタクトレンズを使用する場合には、コンタクトレンズで角膜が圧迫されて進行してもわかりにくくなるので、診察の前は1週間ほどコンタクトレンズを装用しないようにして受診する必要があります。ソフトコンタクトレンズの場合には前日まで装用していても大丈夫です。
20代後半以降の方は、もし進んだ場合でも小児のように急に進むことは珍しいので、角膜クロスリンキングを行う場合にもエピオン法などの痛くない方法を選択しても良いかと思います。
4. 30代の場合
30代になると、円錐角膜が進行する人は少なくなってきます。軽度の人はそれ以上進行することはまずありません。中等度以上の人でも、進行する場合も比較的ゆっくり進むことが多いので、経過観察も年1〜2回で良いことが多いです。
しょっちゅう診察する必要はありませんが、その代わり診察前はハードコンタクトを1週間以上しっかり外してから受診するようにしてください。そうでないと、せっかく仕事を休んで時間を割いて受診する意味がなくなってしまいます。
ハードコンタクトレンズが合わない人には、他の矯正手段もありますので、担当の医師に相談してください。
円錐角膜の視力矯正~さまざまなコンタクトレンズ〜
5. 40〜50代の場合
このぐらいの年齢になると、普通の円錐角膜はまず進行しません。ただこの世代の方は、円錐角膜が進行する若い年代の時に角膜クロスリンキングで進行停止することができなかった世代で、とても重症になってしまっている方を見かけることがあります。
重症の方は、中年以降になっても微妙に進み続けているのではないかと思われることがあります。職場でも私生活でも責任ある立場についたりする年齢でストレスも増えてくるためか、老眼も入ってくるせいか、ハードコンタクトレンズで生活することがだんだん辛くなり、角膜移植を受ける方もいます。
その他、注意しなくてはならないのは、ペルーシド辺縁角膜変性症というタイプの円錐角膜です。円錐角膜の中でも角膜の下の方が薄くなり突出してくるタイプです。ペルーシド辺縁角膜変性は普通の円錐角膜と異なって30歳代以降になってから発症し、50歳以降でも進行していくので、診断されたら30歳代以降でも悪くなる前に角膜クロスリンキングをしておくのが良いと思います。
6. 60歳以上の場合
60歳以降の円錐角膜は、もう進行する心配はほとんどないと言って良いでしょう。病気とのおつきあいが長い方も多く、コンタクトレンズにも慣れていて、中にはすでに角膜移植を受けていらっしゃる方もいます。
60歳以降になると誰でも白内障が出てきます。白内障手術は、自分の濁った水晶体を摘出して新たに眼内レンズを移植する手術です。この時に、眼内レンズの度数はその人の目の状態に合わせて調整できるので、強度近視を治すことができます。
円錐角膜の方は超強度近視が多いですが、白内障手術を機に近視の度数を軽度近視に弱めることができます。ただ、円錐角膜の場合は眼内レンズ度数計算がやや難しいという特徴があります。普通の人と同じ方法で計算すると狙いがずれてしまうこともありますので、角膜に詳しい医師がいる病院で計算してもらった方が良いと思います。ただし、白内障手術では不正乱視は治らないので、術後も良い視力を得る時にはコンタクトレンズが必要な場合が多いです。軽い近視にしておけばコンタクトレンズの作成もしやすく、またコンタクトレンズなしでも家の中の生活ぐらいはできるようになります。円錐角膜の方は白内障になったら早めに手術をして、ついでに近視の度数を減らすのが良いかもしれません。
その他、円錐角膜の方は緑内障の合併が多いことも知られています。年に1度は眼科クリニックで、白内障のほか緑内障や網膜疾患などがないか、検査してもらうことをお勧めします。
7. 「いずれ角膜移植が必要になりますか?」
時々患者さんから「このまま進行していくと角膜移植が必要になりますか?」と聞かれることがあります。または、まだ軽い人から「見えにくいけど、角膜移植で見やすくすることはできますか?」と聞かれることもあります。
角膜移植は円錐角膜治療の最終手段です。他の方法で視力矯正ができる人には角膜移植は原則として行いません。例えば、ハードコンタクトレンズで問題なく生活できている人は重症であっても角膜移植をすることはありません。
角膜クロスリンキングの普及に伴って、円錐角膜が原因で角膜移植を受ける人の数は世界中で減少しています。円錐角膜が角膜移植の適応疾患リストから姿を消す日がいずれ来るかもしれません。
まとめ
円錐角膜と診断されても、絶望する必要はありません。今の時代は進行を止める角膜クロスリンキングもありますし、矯正方法も以前に比べて飛躍的に増えました。一つの方法が合わなくても代わりの方法が見つかる可能性は高いのです。ただ、円錐角膜が軽度の方が治療法・矯正方法の選択肢は多いので、とにかく重症にならないように早いうちに対策を始めてほしいところです。
円錐角膜と診断された時に「今そんなに困ってないから」「病院に言って手術を勧められると怖いから」と言って放置しないで、担当医とよく相談して自分の状態を把握し、長い目で見て最も良い方法を選ぶようにしてください。
先進的な技術があれば治るをモットーに、円錐角膜治療で進行を止めるための角膜クロスリンキングを日本で初めて導入した実績があり、国内の角膜クロスリンキング手術を牽引しています。また新しい角膜内皮移植DMEKの執刀ができる数少ないドクターの一人です。
65歳男50年前に円錐角膜発症。当時は治療法無くコンタクトで矯正の日々。いつも擦れて白濁したので31歳でエピケラトファキア(上角膜レンズ移植術)担当坪田一男医師それから30数年。 数ヶ月前から眼精疲労が激しく近くの眼科で診察したところ移植角膜に混濁あり。北里大学病院を紹介される。